犬の腎臓病では、病気が進行するにつれて 「貧血」 が起こりやすくなります。
食欲が落ちたり、元気がなくなったり、歩くとすぐ息が切れたり…
こうした症状は「腎臓が悪いから仕方ない」と誤解されがちですが、実は “貧血が隠れている” 可能性があります。
腎臓病の貧血は放置すると命に関わりますが、
早期に気づき、正しく対策すれば改善が期待できます。
この記事では、
✔ 腎臓病と貧血の関係
✔ ヘマトクリット値(HCT)の見方
✔ 危険ラインの判断基準
✔ 貧血の症状
✔ 治療法・家庭でのケア
をわかりやすく解説します。
Contents
■ そもそも貧血とは?犬の体で何が起きているのか
貧血とは
血液中の赤血球(酸素を運ぶ細胞)が不足し、体に酸素が行き届かなくなる状態
のことです。
犬の場合、赤血球は骨髄で作られていますが、その“製造スイッチ”を押しているのが 腎臓 です。
腎臓から分泌される
👉 エリスロポエチン(EPO)
というホルモンが、赤血球の産生を促します。
つまり腎臓が弱ると…
➤ EPOが出ない
→ 赤血球が作れない
→ 貧血が起こる
これが 腎性貧血 と呼ばれる、腎臓病に特有の貧血です。
■ 腎臓病と貧血はなぜセットで起こりやすいのか?
理由は大きく3つあります。
① エリスロポエチン(EPO)の不足
腎臓病で最も代表的な原因です。
腎臓の細胞が壊れてくると、
EPOホルモンを作る能力が低下します。
EPOが不足すると赤血球が作れないため、
貧血が進行しやすくなります。
② 尿毒症による骨髄の機能低下
腎臓病が進行すると、血液中に老廃物(尿素、尿毒素)が溜まります。
これが骨髄に悪影響を与え、
赤血球をうまく作れなくなる
ことがあります。
③ 栄養障害(食欲低下・タンパク不足)
腎臓病の犬は食べむらや食欲不振が多くなり、
タンパク質や鉄などの栄養不足が起きやすいです。
栄養不足 → 赤血球の材料が足りない
という流れで、貧血が悪化します。
■ ヘマトクリット値(HCT)とは?貧血を判断する重要な数値
貧血の重さを見る代表的な指標が
👉 ヘマトクリット値(HCT)
です。
ヘマトクリット値とは
血液全体の中で、赤血球が占める割合(%)のこと。
HCTが低いほど、赤血球が少ない=貧血ということになります。
■ 犬のヘマトクリット値の基準
一般的な基準値はこちらです。
| 状態 | HCT(ヘマトクリット) |
|---|---|
| 正常 | 37〜55% |
| 軽度の貧血 | 30〜36% |
| 中等度 | 20〜29% |
| 重度貧血 | 20%以下(非常に危険) |
特に 20%以下は緊急レベルで、命に関わる状態 です。
■ ヘマトクリット値が下がると起きる“危険な症状”
HCTが下がると、体に酸素がうまく運べなくなり、以下のような症状が出ます。
● 初期
-
少し疲れやすい
-
散歩で歩く距離が減る
-
寝ている時間が長くなる
● 中期
-
食欲低下
-
元気がない
-
心拍数が上がる(どくどく早い)
-
呼吸が浅く速い
● 重度
-
歩くとすぐ座り込む
-
歯茎や舌が白っぽい
-
倒れそうになる
-
呼吸困難
-
ぐったりして動かない
これらの症状がある場合は、緊急で病院へ。
■ HCTと一緒に見るべき他の検査項目
貧血の原因をより正確に判断するために、
ヘマトクリット値だけでなく以下の項目も重要です。
● RBC(赤血球数)
→ 赤血球そのものの量。
● HGB(ヘモグロビン)
→ 酸素運搬の能力を示す。
● MCV / MCHC
→ 赤血球の大きさ・色をチェックし、栄養性か、腎性かを判断。
● Cre・BUN・SDMA
→ 腎臓病の進行度を見る。
● リン(P)、カリウム(K)
→ 電解質異常が貧血を悪化させることがある。
■ 腎臓病による貧血の治療方法
腎性貧血は自然に回復することはほぼありません。
必ず何らかの治療が必要です。
① EPO製剤(エリスロポエチン注射)
腎臓病の貧血治療で有力なのが
人工的にEPOを補充する注射 です。
これにより赤血球の産生が促され、
数週間でHCTが改善することがあります。
※ただし副作用として血圧上昇や抗体形成があるため、獣医師の厳密な管理が必要。
② 鉄剤の補給(注射・内服)
貧血の犬では鉄が不足していることが多いため、
鉄剤の補給が有効な場合があります。
③ 栄養管理(タンパク質、B群、鉄)
食欲が落ちると赤血球が作れなくなります。
-
高品質タンパク質
-
ビタミンB群
-
鉄分
を必要量だけ補給することが重要。
④ 点滴・輸液療法で尿毒症を改善
老廃物の蓄積で貧血が悪化するため、
点滴で体液バランスを整えることは貧血改善につながります。
⑤ 重度の場合は輸血
HCTが 15〜20%以下 の重度貧血では、
輸血が必要になることがあります。
短期間で体を立て直すための緊急措置です。
■ 家庭でできる貧血対策(補助ケア)
治療の補助として、家庭でできるケアもあります。
● 水分管理
脱水は血液を濃くして腎臓に負担をかけるため、こまめな飲水が大切。
● 食事管理
-
高品質のタンパク質
-
ビタミンB群
-
亜鉛
-
鉄
必要に応じて療法食にサプリをプラスすることもあります(必ず獣医師の指示に従う)。
● 過度な運動を避ける
貧血時の運動は酸素不足を悪化させます。
散歩は短めでOK。
● 冷え対策
冷えは貧血を悪化させるため、腹部や背中の保温を意識しましょう。
■ まとめ|ヘマトクリット値を知ることは“愛犬の命を守ること”
腎臓病の貧血は静かに進行し、重度になるまで気づかれにくい危険な症状です。
✔ 腎臓病ではEPO不足で貧血が起こりやすい
✔ ヘマトクリット値(HCT)で貧血の重さを判断
✔ 20%以下は緊急レベル
✔ EPO注射・鉄剤・栄養管理など治療方法がある
✔ 家庭での水分・食事管理も改善に役立つ
腎臓病の治療は“数値と向き合う”ことがカギ。
HCT(ヘマトクリット値)を正しく理解することで、
愛犬の危険を早期に察知し、適切なケアにつなげることができます。


