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犬の腎臓病の合併症とケア

高血圧が犬の腎臓病を悪化させる仕組みを徹底解説|獣医師が伝える本当の怖さ

犬の腎臓病は、緩やかに進行し、完治が難しい病気として知られています。その中でも見落とされがちな大きな要因が「高血圧」です。高血圧は症状が出にくく、飼い主が気づかないまま腎臓に深刻なダメージを与える“サイレントキラー”。腎臓病と高血圧は互いに悪影響を及ぼし合い、気づいたときには病気が進行しているケースも珍しくありません。

本記事では、犬における高血圧と腎臓病の関係を、生理学的な仕組みからわかりやすく整理し、なぜ高血圧が腎臓病を悪化させるのかを詳しく解説します。


Contents

腎臓病と高血圧は“切っても切れない関係”

腎臓病と診断された犬の多くは、高血圧を併発しています。海外の研究では「腎臓病の犬の約30〜90%が高血圧を抱えている」とされており、日本でも同様の傾向があると考えられています。

しかし、犬は高血圧になっても自覚症状が出にくく、飼い主が気づいた時には病状が相当進んでいることも多いのが現実です。

この「気づきにくさ」が、高血圧をより危険なものにしています。


腎臓と血圧の関係|まずは基本を理解する

高血圧が腎臓に悪影響を与える理由を理解するために、まず腎臓の働きを整理しておきましょう。

腎臓の役割は“ろ過”だけじゃない

腎臓には大きく3つの役割があります。

1. 老廃物を排出する(ろ過機能)

血液を濾過し、不要な老廃物や毒素を尿として外に出す役割です。腎臓病ではこの機能が低下します。

2. 体内の水分・ミネラルを調整する

ナトリウム(塩分)、カリウム、水分などのバランスを保つことで、体の恒常性を維持します。

3. ホルモンを分泌する

とくに重要なのが レニン というホルモン。
これは血圧を調整するRAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)を活性化させます。

つまり腎臓は、
「血液をろ過するフィルター」であり、「血圧を調整する司令塔」でもある
ということです。


RAASとは?血圧を上げる“スイッチ”の仕組み

RAAS(レニン–アンジオテンシン–アルドステロン系)とは?

簡単に言うと、

腎臓が「血圧を上げろ!」と全身に指令を出す仕組みです。

腎臓が「血流が足りない」と判断するとレニンが分泌され、
アンジオテンシンⅡ → 血管収縮
アルドステロン → ナトリウムと水をため込む
という連鎖が起こり、血圧が上昇します。

この仕組みは本来、命を守るための重要な反応ですが、
腎臓病になるとこのRAASが暴走し続けてしまう
ことが問題の始まりです。


腎臓病が高血圧を引き起こす理由

腎臓病そのものが直接的に血圧を上昇させる原因になることが多く、主に次の3つのメカニズムが関わります。

① ナトリウムや水が体に溜まりやすくなる

腎臓が弱ると塩分(ナトリウム)を排出できなくなり、体に水分がたまりやすくなります。

  • ナトリウムが増える

  • 血液量が増える

  • その分、血圧が上昇する

という流れです。

② 腎臓の血管が傷み、血流が悪化する

腎臓の血管が障害されると、腎臓が「血流が足りない」と誤解し、レニンを過剰に分泌してしまいます。
これが結果として高血圧を引き起こします。

③ RAASが暴走し、血圧上昇を止められない

腎臓病の犬ではRAASが常に活性化している状態になりやすく、血圧が慢性的に高くなります。

特に怖いのは、
腎臓の機能低下 → RAAS活性化 → 高血圧 → 腎臓の血管損傷 → さらに腎臓が悪化
という「負のスパイラル」を引き起こすことです。


高血圧が腎臓病を悪化させるメカニズム

ここからが本題です。

“高血圧が腎臓にどう悪影響を及ぼすのか”を具体的に見ていきます。


① 高い圧力で血管が傷む → 糸球体が壊れる

腎臓には「糸球体(しきゅうたい)」という血管の塊があります。ここで血液がろ過されて尿が作られているのですが、この糸球体は非常に繊細です。

高血圧で血流の圧力が高まると、

  • 糸球体の毛細血管が破れやすくなる

  • 壁が厚く硬くなり、ろ過能力が低下する

  • その結果、腎臓全体の機能が落ちていく

という状況が起こります。

まさに“高圧洗浄機の水圧でパイプが壊れていく”ようなイメージです。


② 糸球体の過剰ろ過(高灌流)が起こる

血圧が高い状態が続くと、糸球体は過剰に働かせられます。
最初は一見「働きが良くなる」ように見えても、長く続けば糸球体は疲弊します。

  • 早い段階:一時的にろ過量が増加

  • 中期:糸球体が厚く硬くなり始める

  • 後期:糸球体が壊れ、ろ過量が急激に低下

これが腎臓病の進行を加速させる大きな原因です。


③ タンパク尿が増える → 腎臓への炎症が悪化する

糸球体が損傷すると、本来尿に漏れてはいけない「タンパク質」が尿中に流れ出ます。

タンパク質は尿細管(腎臓の組織)にとって刺激物であり、
尿細管に炎症を起こし、腎臓内部をさらに損傷させます。

これが
「高血圧 → 糸球体の損傷 → タンパク尿 → 炎症悪化 → 腎臓の機能低下」
という負の連鎖です。


④ 血流バランスが崩れ、腎臓の血管がさらに傷つく

高血圧状態では腎臓の血管が硬くなり、血流が不安定になります。

  • 血流がうまく行き届かない部分が出てくる

  • 壊死や線維化(硬くなる)を引き起こす

  • 腎臓全体として機能を失う速度が速くなる

血圧が高いほど腎臓へのダメージは加速度的に増えます。


犬の高血圧は見えにくい|飼い主が気づきにくい理由

犬は人間のように「頭が痛い」「めまいがする」と言えません。
そのため、高血圧の症状が現れても飼い主が気づきにくいのです。

よくあるサイン

  • 目をしょぼしょぼさせる

  • 瞳孔の揺れ

  • 失明(網膜剥離)

  • ふらつき

  • 食欲不振

  • 元気の低下

  • 頭を壁に押し付ける

特に失明は高血圧による典型的な合併症で、突然起こることもあります。


腎臓病の犬では血圧測定が必須な理由

腎臓病の犬はほぼ例外なく高血圧のリスクがありますが、
実際には血圧を定期的に測る家庭は多くありません。

理由は主に以下の3つ

  • 犬の高血圧が知られていない

  • 症状が目立たない

  • 動物病院でも毎回測定されるとは限らない

しかし、高血圧は腎臓病を悪化させる最大の要因のひとつ。
「測っておくこと」が病気の進行を大きく左右します。


高血圧をそのままにすると…最終的なリスク

放置した場合、次の深刻な問題が起きます。

1. 腎機能の急激な悪化(末期腎不全)

糸球体が壊れ、ろ過ができなくなると末期腎不全に向かいます。

2. 失明(網膜剥離)

急性の高血圧で突然起こることがあります。

3. 脳梗塞・脳出血のリスク

犬にも脳血管障害は起こります。

4. 心臓への負担増加

心臓病との併発は予後を大きく悪くします。


高血圧の治療と管理方法|飼い主が知っておくべきこと

高血圧は治療や管理によりコントロールが可能です。
正しくケアすれば、腎臓病の進行を大幅に遅らせることができます。


① 薬物療法(ACE阻害薬・ARB・カルシウム拮抗薬)

獣医療でよく使われる薬は、

  • ACE阻害薬(エナラプリル、ベナゼプリル)
    → RAASを抑え、血圧を下げる
    → タンパク尿の改善にも効果

  • ARB(テルミサルタン)
    → アンジオテンシンⅡの働きをブロック
    → 効果が強い場合が多い

  • カルシウム拮抗薬(アムロジピン)
    → 血管を直接拡張し、血圧を迅速に下げる

犬の状態に応じて薬が組み合わされます。


② 食事療法

食事は血圧管理の基盤です。

  • ナトリウム(塩分)を控える

  • 水分摂取を増やす

  • 適切なタンパク質量

  • 降圧作用が期待できるオメガ3脂肪酸

腎臓病用の療法食は、高血圧対策としても非常に有効です。


③ 日常生活でできるケア

  • 水をいつでも飲める環境

  • ストレスを減らす

  • 肥満の予防

  • 適度な散歩

  • 家庭での観察(目の動き・歩き方・食欲)

毎日の積み重ねが、腎臓の負担を減らします。


高血圧は腎臓病の“見えない加速装置”

犬の腎臓病はゆっくり進行する病気ですが、
高血圧が加わるとそのスピードは一気に早まります。

  • 糸球体が傷つく

  • タンパク尿が増える

  • 炎症が悪化する

  • 腎臓が急激に弱る

という悪循環を避けるためには、

✔ 定期的な血圧測定
✔ 適切な薬物治療
✔ 食事と水分管理
✔ 飼い主の気づき

これらの積み重ねが最も重要です。

高血圧は早期に気づき、正しく対処すれば確実にコントロールできます。
大切な愛犬の寿命と生活の質(QOL)を守るために、腎臓病とともに必ず“血圧”にも目を向けていきましょう。