犬の腎臓病は慢性的に進行する病気であり、全身の健康状態に影響を与えます。一方で「腫瘍疾患(がん)」も高齢犬に増える代表的な病気のひとつです。腎臓病と腫瘍疾患は直接的な因果関係を持つこともあれば、互いに病態を悪化させ合うこともあります。腎臓にできる原発性腫瘍や、他の臓器からの転移性腫瘍が腎機能に影響を与えることも少なくありません。ここでは犬の腎臓病と腫瘍疾患の関係、合併症のリスク、ケア方法について詳しく解説します。
Contents
腎臓病と関連する代表的な腫瘍疾患
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腎細胞がん
腎臓に発生する原発性腫瘍。転移しやすく、腎機能低下を引き起こす。 -
腎リンパ腫
リンパ腫が腎臓にできるタイプ。進行が早く、急性腎不全を起こすこともある。 -
移行上皮がん(膀胱がん、尿路がん)
腎盂や尿管に発生することがあり、尿路閉塞や水腎症を起こす。 -
転移性腫瘍
他の臓器のがんが腎臓に転移し、腎不全を悪化させる。
腫瘍が腎臓に与える影響
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腫瘍そのものが腎臓を圧迫・破壊し、機能を低下させる
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腫瘍による尿路閉塞が腎盂拡張や腎盂腎炎を引き起こす
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抗がん剤や放射線治療の副作用が腎臓にダメージを与える
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腫瘍に伴う炎症や免疫異常が腎機能をさらに悪化させる
腎臓病が腫瘍に与える影響
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腎臓病による免疫力低下が腫瘍の進行を早める
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栄養不良や代謝異常で腫瘍に対する抵抗力が落ちる
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治療の選択肢が限られ、腫瘍のコントロールが難しくなる
合併症のリスク
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急性腎不全(腫瘍による尿路閉塞や炎症で発症)
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慢性腎不全の進行
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貧血や体重減少による衰弱
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尿毒症や全身性炎症反応症候群(SIRS)
合併症の症状
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多飲多尿または乏尿
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血尿、濁った尿
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嘔吐、下痢、食欲不振
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体重減少、筋肉量低下
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発熱や元気消失
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腹部のしこりや違和感
管理とケアの方法
食事管理
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腎臓病用療法食(低リン・低ナトリウム・高消化性たんぱく質)を基本とする
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がん対策としてオメガ3脂肪酸や抗酸化成分を補給
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食欲低下時は嗜好性の高いフードやウェット食を工夫
薬物・治療法
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腎臓病:降圧薬、リン吸着剤、制吐剤など
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腫瘍:外科手術、抗がん剤、放射線治療
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腎機能が低下している場合は治療選択肢が制限されるため、QOL(生活の質)を重視した治療方針が必要
水分補給
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水分を十分に与え、脱水を防ぐ
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嘔吐や下痢がある場合は皮下輸液を併用
定期的な検査
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血液検査:BUN、クレアチニン、SDMA
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画像検査:超音波検査、X線、CTで腫瘍の位置や大きさを確認
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尿検査:血尿や尿細胞診で腫瘍の有無を把握
生活環境
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安静と快適さを確保
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栄養と水分を摂取しやすい環境づくり
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ストレスを避け、体力維持を重視
飼い主がよく抱く質問
腎臓病がある犬でも抗がん剤は使えますか?
使用可能ですが、腎排泄性の薬剤は副作用が強く出る可能性があるため、慎重に判断が必要です。
腫瘍と腎臓病、どちらの治療を優先すべきですか?
命に直結する症状を優先します。尿路閉塞や急性腎不全のリスクが高い場合は腎臓病の管理を優先することもあります。
腫瘍を手術で取り除けば腎臓病も治りますか?
腫瘍による圧迫や閉塞が原因なら改善する場合もありますが、腎機能がすでに損なわれている場合は完全な回復は難しいです。
まとめ
犬の腎臓病と腫瘍疾患は互いに影響を及ぼし合い、併発すると治療や管理が複雑になります。
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腎臓にできる腫瘍(腎細胞がん、リンパ腫、移行上皮がんなど)は腎不全の原因となる
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腫瘍の進行や治療が腎機能を悪化させることがある
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腎臓病による免疫力低下は腫瘍の進行リスクを高める
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管理は薬物・食事・水分補給・定期検査を組み合わせ、QOLを重視することが大切
飼い主が腫瘍と腎臓病の関係を理解し、獣医師と連携して最適な治療法を選ぶことで、愛犬の健康寿命を守ることができます。